演目/めがね泥
「めがね泥(めがねどろ)」とは
古典落語の泥棒噺(どろぼうばなし)・滑稽噺(こっけいばなし)の一つで、間抜けな泥棒を描いた短い一席です。
「泥棒=怖い存在」ではなく、落語らしくどこか抜けていて憎めない人物として描くのが特徴です。
泥棒が盗みに入った先で、思わぬ物に振り回されるという小噺的な面白さがあります。
あらすじ(全体)
ある泥棒が夜中に商家へ忍び込む。
泥棒は、「誰にも気づかれず、うまく盗んでやろう」と考えている。
ところが暗闇の中で物を探しているうちに、何かを見つける。
それは眼鏡だった。
泥棒は眼鏡をかけたことがなく、「これは何に使うものだろう」と不思議に思う。
試しにかけてみると、今まで見えなかったものがよく見える。
そこで泥棒は、「なるほど、これは便利な道具だ」と感心する。
しかし、眼鏡をかけたことで、今まで気づかなかったものまで見えるようになり――
自分の泥棒稼業にも影響が出てしまう。
サゲ
代表的な型では、眼鏡をかけた泥棒が、「こんなに見えるなら、もっと早く使えばよかった」と喜ぶ。
しかし周囲から見ると、「泥棒が眼鏡をかけて盗みに来ている」という間抜けな姿になっている。
という落ち。
※この噺は短い小噺系で、演者によって展開やサゲに違いがあります。
得意とした噺家
古今亭志ん生
→ 抜けた泥棒の可笑しさを出すのが巧み。
古今亭志ん朝
→ 短い噺でも人物を鮮明に描く。
柳家小三治
→ 普通の人間が少しずれているような自然な演出。
噺の魅力
① 泥棒なのに怖くない
落語の泥棒は、悪党というより失敗者。
「悪いことをしているのに間が抜けている」というギャップが笑いになります。
② 道具が主役になる面白さ
眼鏡という日常道具が、泥棒の世界では大事件になる。
江戸の人々にとって眼鏡はまだ珍しい道具だったため、そこにも時代感があります。
③ 知恵があるようでない人物
泥棒は工夫しているつもりですが、発想そのものがずれている。
この「惜しいバカ」が落語らしい人物像です。
成立
成立時期や作者ははっきりしていません。
眼鏡が一般にも知られるようになった江戸後期以降の、道具を題材にした滑稽噺と考えられています。
短い噺として寄席で伝わってきました。
上演の特徴
5〜10分程度の短い演目。
前座噺や余興的な一席として演じられることがあります。
短いながら、
- 泥棒の動き
- 眼鏡を初めてかける驚き
- 間抜けさ
を表現する技術が必要です。
落語ファンが特に好きな場面
眼鏡をかける場面
初めて世界がよく見える驚きを、噺家の仕草だけで表現するところ。
泥棒の勘違い
本人は真剣なのに、周囲から見ると完全に滑稽。
このズレが笑いになります。
類似する演目
- 「出来心」→ 間抜けな泥棒噺。
- 「穴どろ」→ 泥棒と町人のやり取り。
- 「鈴ヶ森」→ 泥棒や追い剥ぎを扱った滑稽噺。
一言でいうと「眼鏡を手に入れて賢くなったつもりの泥棒が、さらに間抜けになる話」です。
落語らしい「悪人を笑いに変える」泥棒噺の一つです。