座布団げーし!

演目/深山がくれ

「深山がくれ(みやまがくれ)」とは

上方落語の長編の滑稽噺(こっけいばなし)で、別題を「一人旅深山隠れ」ともいう珍しい演目です。

肥後・天草を舞台に、山奥に潜む女山賊たちと、それを退治しようとする男の戦いを描きます。

普通の落語とはかなり趣が異なり、講釈・立ち回り・芝居がかった演出を取り入れた、非常にスケールの大きな噺です。実際、TBSもこの噺を「もともと辻噺(大道講釈)」で、長編のため三回ほどに分けて演じられたようだと紹介しています。

あらすじ(全体)

肥後・天草のある村。

村では、男たちが次々と姿を消していた。

百姓や漁師など、村から出て行った者が誰一人として戻ってこない。

調べてみると、どうやら深い山に潜む女山賊たちの仕業らしい。

そこで庄屋の次男源吾が、山賊退治に向かうことになる。

深山の女山賊

山奥には女首領を中心とした山賊たちが住み着いている。

村人たちを襲い、男たちをさらっている。

源吾は単身で山へ入り、山賊の根城を探す。

しかし、相手は一筋縄ではいかない。

山賊たちは女ばかりの一団で、源吾は敵の目を欺きながら洞窟へ近づいていく。

山賊の岩窟へ

源吾は、山賊の一味に近づくために知恵を働かせる。

妹御前を利用して山賊の岩窟へ入り込み、ついに敵の本拠地を突き止める。

そして、山賊たちとの戦いが始まる。

山賊退治

源吾は次々と山賊を斬り倒していく。

最後には女首領である姉御前との対決となる。

こうして源吾は山賊を退治し、村から男たちが消えていた事件を解決する。

成立と背景

この噺は普通の江戸落語のような「長屋の日常」を描く作品とはかなり違います。

もともとは辻噺(大道講釈)として演じられていた長編の物語とされています。

また、背景には島原・天草一揆にまつわる歴史的な人物や事件が取り込まれています。

TBSの解説では、森宗意軒の妻が登場することが紹介されており、講釈らしく史実を題材にした要素を持っています。

上演の特徴

① 長編

通常の落語よりかなり長い噺です。

国立劇場の記録では、二代目露乃五郎の「深山隠れ」が41分

1973年のラジオ大阪「落語百選」でも、露乃五郎の口演が42分として記録されています。

② 講釈・芝居の要素

戦闘場面や山賊との対決など、通常の滑稽噺とは違った講談・芝居的な見せ場があります。

そのため、噺家の語りだけでなく、下座音楽を使って立ち回りを盛り上げることもあります。実際、露乃五郎の口演についても「賊達との戦いを下座音楽をまじえて描く」と紹介されています。

得意とした噺家

二代目露乃五郎

→ 「深山隠れ」を代表する演者の一人。

1973年のラジオ大阪「落語百選」に42分の口演が記録されており、国立劇場の「国立名人会」でも41分の口演が記録されています。

桂吉朝

→ 上方落語の長編・珍しい演目にも積極的に取り組んだ名手。「深山隠れ」の口演も残されています。

桂吉坊

→ 桂吉朝の弟子で、師匠から受け継いだこの噺を現在も演じています。

TBS「落語研究会」では2024年12月に「深山隠れ」を口演し、2025年制作の番組としても紹介されています。

噺の魅力

① 普通の落語とは違うスケール

「長屋で夫婦喧嘩」「知ったかぶり」「酒飲み」といった一般的な落語とは違い、村人が消える → 山賊を探す → 山奥へ入る → 岩窟へ潜入 → 山賊と戦うという、かなり大きな物語です。

② 女山賊という異色の設定

この噺の最大の特徴の一つ。

山奥に女ばかりの山賊団が潜んでいるという設定が、非常に講釈らしい奇抜さを持っています。

③ 落語と講釈の中間

「深山隠れ」は、落語だけでなく講釈・大道芸的な語り物の雰囲気を強く残しています。

そのため、物語を聞く楽しさそのものが大きい演目です。

「一人旅深山隠れ」との関係

「深山隠れ」には、「一人旅深山隠れ」という別題があります。

見どころ

源吾の山賊退治

この噺の中心となる場面。

源吾が一人で山へ入り、山賊の根城へ向かっていく。

通常の落語にはあまりない冒険活劇として楽しめます。

岩窟での戦い

山賊の本拠地に入り込んでからの立ち回りは、この噺最大の見せ場。

下座音楽を伴って演じる型もあり、まさに落語で演じる講釈・チャンバラです。

類似する演目

  • 「鷺とり」→ 上方落語らしい大きな動きとナンセンス。
  • 「愛宕山」→ 山を舞台にした上方落語。
  • 「三十石」→ 長編で、旅の情景を大きく描く上方落語。
  • 「宿屋仇」→ 旅を背景にした上方の滑稽噺。

一言でいうと

「天草の山奥に潜む女山賊を、一人の男が退治する、落語というより講釈・冒険活劇に近い長編上方落語」です。