演目/つる
「つる」とは
古典落語の滑稽噺(こっけいばなし)の代表作で、知ったかぶり・でたらめな知識を題材にした一席です。
鶴の首がなぜ長いのかという素朴な疑問に対して、知ったかぶりの男がもっともらしい作り話を始めます。
「青菜」「道灌」「やかん」などと同じく、知識を中途半端に覚えた人物が、それを得意げに披露して失敗するタイプの落語です。
あらすじ(全体)
ある男が、友人と話をしている。
ふと、空を飛んでいる鶴を見て、「どうして鶴の首はあんなに長いんだろう」という話になる。
友人は分からない。
すると、そこに知ったかぶりの男が現れる。
「そんなことも知らないのか」と得意げに説明を始める。
鶴の由来
男によれば、昔、鶴が水辺にいたところへ、「首を伸ばして水を飲んだ」という。
ところが、そのとき何かの拍子に首が伸びてしまった。
それ以来、鶴の首は長くなったのだという。
もちろん、男の完全なでたらめである。
しかし説明の仕方が妙にもっともらしい。
聞いていた友人は、「なるほど、そうだったのか」とすっかり信じてしまう。
友人も知ったかぶり
友人は、「俺もその話を人にしてやろう」と思う。
ところが、肝心の話を正確に覚えていない。
そこで自分なりに話を再現しようとする。
すると、聞いた話をさらに間違えて覚えてしまう。
元の知ったかぶりの説明がすでにでたらめなのに、それを聞いた友人がさらに勘違いするため、話はますますおかしくなっていく。
「つる」という名前
この噺の有名なところは、「鶴」という名前の由来まで知ったかぶりで説明するところです。
「鶴」という鳥を見たこともないような相手に、「こうやって首を伸ばしたから……」などと、身振りを交えながら説明する。
ところが、肝心な言葉を忘れてしまう。
そこで、「首を伸ばして……こう……」と実演しているうちに、自分でも何を説明しているのか分からなくなる。
サゲ
代表的なサゲでは、友人が知ったかぶりの男から聞いた話を、別の人に得意げに説明しようとする。
ところが、途中で肝心の言葉を忘れてしまう。
「首をこうして……」とやっているうちに、「それで何になったんだ?」というような調子になり、結局うまく説明できない。
そして、「それじゃあ、鶴じゃなくて……」と、さらにおかしな方向へ話が転がって終わります。
演者によって細かなサゲや人物設定には違いがあります。
得意とした噺家
三代目桂米朝
→ 上方落語の「つる」を代表する演者の一人。知ったかぶりの人物を自然に描き、話が崩れていく過程を丁寧に見せます。
桂枝雀
→ 知ったかぶりの人物が自信満々にでたらめを語る可笑しさを、豊かな表情と動きで大きく膨らませます。
五代目柳家小さん
→ 江戸落語らしい素朴な人物描写で、知ったかぶりの滑稽さを引き出します。
噺の魅力
① 「知らない」と言えない
この噺の主人公は、「分からない」と言えばいいところを、「俺は知っている」と言ってしまいます。
そのため、説明を続けるうちに自分で自分を追い込んでいきます。
「ちりとてちん」と同じく、知ったかぶりの心理が笑いの基本になっています。
② もっともらしい嘘
主人公は単純に、「適当なことを言おう」としているわけではありません。
自分では本当に知識があると思っているような態度で話します。
その自信と内容のデタラメさのギャップが笑いになります。
③ 身振りが重要
「つる」は、言葉だけでなく仕草も大きな見せ場になります。
首を伸ばした様子を実際に演じてみせることで、「何をやっているんだ」という可笑しさが生まれます。
「つる」と知ったかぶり噺
この噺は、落語に多い知ったかぶり型の代表例です。
- 「つる」→ 鶴についてのでたらめな知識。
- 「道灌」→ 聞きかじった古歌を間違って使う。
- 「やかん」→ 知ったかぶりで何でも説明する。
- 「ちりとてちん」→ 知らない食べ物を知っているふりをする。
共通しているのは、知らないことを「知らない」と言えないという人間の見栄です。
成立
古くから伝わる滑稽噺で、上方・江戸の双方で演じられています。
原話・成立については諸説ありますが、現在の「つる」は、知ったかぶりの人物が鶴の由来をでたらめに説明する噺として定着しています。
上演の特徴
10〜20分程度の比較的短い噺。
登場人物も少なく、前座噺としても演じられます。
一方で、単に「でたらめを言う」だけでは笑いになりにくいため、「本人は本気で正しいと思っている」という人物を作れるかどうかが重要です。
落語ファンが特に好きな場面
鶴を説明し始めるところ
「そんなことも知らないのか」と、急に先生のような顔をして説明し始める。
ここで観客には、「こいつ、絶対に知らないだろう」という期待が生まれます。
身振りで説明するところ
鶴の首が伸びる様子を、「こうして……こうなって……」と実演する。
言葉で説明していたはずが、だんだん身振りに頼っていくところが面白いところです。
聞いた話を別の人に教えるところ
自分が聞いた話を得意げに人へ伝えようとする。
しかし、覚え間違いによってさらに話が崩れていく。
「知ったかぶりが知ったかぶりを再生産する」ような構造が、この噺の面白さです。
類似する演目
- 「道灌」→ 知ったかぶりから古歌を間違って使う。
- 「やかん」→ 知らないことまで知ったかぶりで説明する。
- 「ちりとてちん」→ 知らないものを知っていると言い張る。
- 「青菜」→ 聞いた粋な言葉を意味も分からず真似する。
一言でいうと
「鶴のことを何も知らない男が、知ったかぶりで適当な由来を語ってしまう噺」です。