演目/四段目
「四段目(よだんめ)」とは
「四段目」は、芝居好きの小僧が、奉公先の蔵に閉じ込められたことをきっかけに、歌舞伎『仮名手本忠臣蔵』の名場面を一人で演じる古典落語です。芝居の真似と、空腹をめぐる騒動が組み合わさった「芝居噺」です。
上方落語では「蔵丁稚(くらでっち)」と呼ばれます。上方で演じられてきた噺が明治期に東京へ伝わったとされます。
あらすじ(全体)
芝居好きの小僧・定吉
商家に奉公する小僧の定吉は、大の芝居好きです。使いに出されると、用事を済ませるよりも芝居見物を優先してしまい、帰りが遅くなることがたびたびあります。
主人は定吉が芝居小屋へ通っていることを知り、とうとう腹を立てます。定吉を問い詰めますが、本人は言い訳をして、なかなか非を認めません。
蔵に閉じ込められる
主人は罰として、定吉を蔵に閉じ込めることにします。定吉は空腹なので、食事をしてからにしてほしいと頼みますが、聞き入れてもらえません。
主人や店の者は、後で食事を届けるつもりでしたが、忙しさに紛れて定吉のことを忘れてしまいます。
蔵の中で始まる一人芝居
暗い蔵の中で腹を空かせた定吉は、気を紛らわせるため、昼間に見た『仮名手本忠臣蔵』の四段目を演じ始めます。
四段目は、塩冶判官が切腹する場面です。定吉は判官や大星由良助などの台詞を芝居さながらに語り、切腹の仕草まで真似します。
その様子を見た店の者は、定吉が本当に腹を切ろうとしているのではないかと驚き、主人に知らせます。
主人が蔵へ駆けつける
主人は定吉のことをすっかり忘れていたことに気づき、食事を持って蔵へ向かいます。
蔵の戸を開け、芝居の台詞を思わせる調子で声をかけると、定吉も芝居の台詞で応じます。
サゲ
主人が食事を持って蔵の戸を開け、「御膳!」と声をかけます。
すると定吉は、芝居の『仮名手本忠臣蔵』四段目の台詞になぞらえて、「蔵の内でか?」と応じます。
主人が「ははあ」と続けると、定吉は「待ちかねた」と返します。
これは、判官切腹の場で、大星由良助がようやく到着する名場面の台詞を、食事を待ちわびていた定吉の状況に重ねたサゲです。芝居の台詞を知っていると、二重の意味が分かって楽しめます。口演によって台詞の表現には違いがあります。
成立・背景
『仮名手本忠臣蔵』との関係
題名の「四段目」は、浄瑠璃・歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の四段目に由来します。
四段目には、主君の塩冶判官が切腹し、大星由良助が駆けつける重要な場面があります。落語では、この場面の台詞や芝居の型を、小僧が蔵の中で真似することで笑いを生み出します。
原話と伝承
原話は、1771年刊行の笑話本『千年草』に収められた「忠信蔵」とされます。上方では「蔵丁稚」として演じられ、明治期以降に東京へ伝わったと説明されています。
上演の特徴
芝居の台詞と型
この噺の中心は、定吉が『仮名手本忠臣蔵』四段目を演じる場面です。芝居の台詞だけでなく、声の調子や間、切腹の仕草なども見どころになります。
芝居を知っているほど楽しめる
芝居の名場面を、蔵の中で空腹に耐えている小僧の状況に置き換えることで、台詞の意味が変わって聞こえます。歌舞伎の知識があると、サゲの面白さがいっそう伝わります。
上方と東京の違い
上方の「蔵丁稚」と東京の「四段目」は、基本的に同系統の噺です。筋立てや芝居の場面の長さ、台詞の運びなどは、演者によって違いがあります。
得意とした噺家
上方落語
三代目桂米朝が「蔵丁稚」を演じた記録があり、上方落語の代表的な口演として知られています。
東京落語
東京では、八代目春風亭柳枝、二代目三遊亭円歌などが演じたことで知られます。近年も桃月庵白酒や春風亭一花らによる口演記録があります。
噺の魅力
芝居好きの情熱
定吉は罰を受けても芝居を忘れられず、蔵の中で一人芝居を始めてしまいます。芝居好きの熱中ぶりが、滑稽さにつながっています。
芝居と日常の重なり
判官切腹の名場面と、空腹で食事を待つ小僧の状況が重なります。大げさな芝居の台詞が、日常の出来事にぴたりとはまるところが、この噺の大きな魅力です。
見どころ
- 芝居見物をやめられない定吉の様子。
- 主人に問い詰められても、言い逃れをしようとするやり取り。
- 蔵の中で始まる『仮名手本忠臣蔵』四段目の一人芝居。
- 主人の「御膳」と、定吉の「蔵の内でか」という、芝居の台詞を生かしたサゲ。
類似する演目
七段目(しちだんめ)
こちらも『仮名手本忠臣蔵』を題材とする芝居噺です。芝居好きの若旦那が、日常生活でも芝居の台詞や仕草を持ち込むところに共通点があります。
淀五郎(よどごろう)
『仮名手本忠臣蔵』の判官切腹の場を題材にした噺です。こちらは、判官役を演じる役者の苦悩や芸の上達を描く人情噺で、「四段目」とは主題が異なります。
一言でいうと
芝居好きの小僧が蔵の中で『仮名手本忠臣蔵』を演じ、空腹と名場面の台詞を重ねて笑わせる芝居噺です。